あらすじ 47～54話
※ネタバレ注意
最大の理解者として、共犯者として
赤焔事案は皇帝の逆鱗だ。
負い目がある分、それに触れる者が誰であろうと、
権威に歯向かう者として断罪してきた。
その皇帝に、自ら事案の再審を命じさせる。
この難題に挑むラストスパートは、
今までの伏線もきっちり回収し、目を離せない展開が続いた。
ただ1番印象に残ったのは、実はその後の
梅長蘇（ばいちょうそ）と藺晨（りんしん）のやり取りだ。
藺晨は、長髪を垂らし白い服をなびかせていた
琅琊（ろうや）閣主のことである。
第1話に登場したのを覚えているだろうか。
まるで深刻な空気を吹き払うかのように、
誰にでも軽口をたたいてからかい、
にぎやかに振舞うのが彼だ。
特に飛流をいじるのが大好きで、
よく逃げ回られている。
はじめ梅長蘇が藺晨をあんまり邪険に扱うので驚いた。
他の人には決して言わない毒舌を吐き、
無理を言って当然の顔をする。
藺晨も負けてはいない。
よく回る口でやり込めたり、
周りが病弱な長蘇に過保護になりがちなのに対して、
どうせ言ったって聞きやしないと突き放したりする。
2人はいわゆるケンカ友達だ。
遠慮の無さは信頼の裏返しでもある。
藺晨は梅長蘇の主治医という顔も持っている。
赤焔軍の汚名が晴れ、皆が喜びにわく中、
彼だけは長蘇を案じる。
梅長蘇は脆弱な体を
強い意志の力でふるい立たせてきた。
長年追い続けた目的を無くし、
彼の気力が尽きてしまうのではないか、
と心配していた。
そこで藺晨は大陸を巡る物見遊山の旅を計画する。
猿を飛流に見せたら面白そうだ。
景勝地のご来光もオツなもの。
久しぶりに遠方の友人にも会いに行こう。
藺晨は「人生楽しんでこそ」という価値観の持ち主に見える。
もう宗主でも復讐鬼でも無く、
梅長蘇は残り少ない命を自分のために楽しめばいい、
と思っていたのだろう。
ところが、である。
旅行に乗り気だった梅長蘇が、北の戦場に行くと言い出した。
諸外国が突然、梁（りょう）国に攻め寄せてきたのだ。
宿敵、大渝（たいゆ）を倒せるのは彼しかいない。
これにはさすがの藺晨も怒り出す。
極寒の戦場に梅長蘇の身がもたないことは明らかだった。
たぶん、藺晨が梅長蘇の復讐に手を貸したのは、
それが彼の生きる道だからだ。
家族や仲間、帰る場所と人間らしい姿まで失った彼は、
生きるより所を必要としていた。
「このままじゃ終われない」という執念は、
前に進む力だったのだ。
絶望にうずくまる姿も、
林殊（りんしゅ）としての過去を切り捨てる苦悩も、
藺晨は主治医としてつぶさに見てきた。
部下には言えないことも、
藺晨にはぶつけたかもしれない。
だから苦々しく思いながらも、
藺晨は無茶する梅長蘇を好きにさせてきた。
「手を尽くして生かしたのは、
お前を死なせるためではない！」
藺晨はそうわめきたかった。
そんな彼も、
迷いのない眼差しで訴える
梅長蘇を見ていられず、目をそらす。
‘‘待て、しかして希望せよ’’
『巌窟王』より
梅長蘇は亡者の無念を果たすために生まれた、
もう1人の林殊だ。
復讐に燃える非情さの底には、
いつでも赤焔軍と国への想いがあった。
「林殊は死んだ」とうそぶきながらも、
梅長蘇は林殊として生きられない自分を疎んじてきた。
藺晨の読み通り、
悲願を果たした彼には空虚さがある。
もう重責を負う靖王を支えることも、
国の行く末を見届けることも出来ない。
あとは静かに消えるだけ。
もちろん、
周りの人が心配するからそんなそぶりは見せない。
自分の気を紛らわそうとしてくれる
藺晨の心遣いもありがたい。
けれど、こんな自分でも
再び国の未来に役立てるなら、
そしてそれが焦がれてきた林殊と同じ最期なら、
こんな幸せなことはない。
それは自由人である藺晨と梅長蘇の、
決定的な違いだ。
長蘇をずっと見てきた藺晨には、
その心が痛いほど解っていたに違いない。
「あの（北の）地こそ私の場所なのだ！」
悲鳴のように叫ぶ梅長蘇に藺晨は折れる。
そして彼の願いを叶えるべく、
医者として従軍して行く。
自分が絶対に認められないことを、
相手のために許し受け入れる。
親しければ親しいほど
なかなか出来ることではないと思う。
藺晨の情の深さが鮮烈だった。
力があり人望がある者も、時にいわれのない
他者の悪意や怖れによって圧しつぶされる。
理不尽な現実を前に、
どんなに願っても届かない手がある。
それでもなお変わらないもの。
そんな人の願いを情感豊かに映し出しているから、
『琅琊榜』を観ると、こんなにも心をつかまれるのかもしれない。