2019年製作/105分/G/香港
原題:葉問4 Ip Man 4
配給:ギャガ・プラス
詠春拳と聞いてピンとこなくても、
ブルース・リーなら知ってるという人は多いだろう。
葉問(イップ・マン)は、
そのブルース・リーの師であり、
葉問派詠春拳(以下、詠春拳)のマスターだ。
彼をモデルにした
ドニ―版「イップ・マン」シリーズ(※)の魅力は、
カンフーアクションの迫力だけでなく、
人間味豊かなドラマにある。
私も好きなシリーズなので、
この最終章のDVDリリースを心待ちにしていた。
<マイ評価>
人間ドラマ ★★★
アクション ★★★
ブルース・リー度 ★★★
(※)葉問を主人公にした作品は多いが、
このシリーズとは無関係なのでご注意。
関連作品や、キャスト・スタッフはこちら
目次
<予告>
<あらすじ>
葉問、アメリカへ
前作『イップ・マン 継承』(葉問3)から5年後の1964年、
葉問(イップ・マン:ドニー・イェン)は
サンフランシスコで披露された、
弟子ブルース・リー(チャン・クォックワン)の
武術演武に拍手していた。
ところが現地のチャイナタウンでは、
西洋人に武術を教えるブルースに
批判の声が上がっていた。
葉問は彼の師として、
会長ワン(ウー・ユエ)と対立してしまう。
同じころ、葉門は息子の留学先を探す中で、
アメリカの華僑をとりまく
厳しい現実を目の当たりにする。
やがて華僑への差別をきっかけに、
ワンをはじめとするチャイナタウンの人々が追い詰められたとき、
葉問は一人の武術家として立ち上がった。
<感想>
人間味のある主人公
主人公である葉問は、
ちょっと見るとまるで強そうには見えない。
柔和な態度で、無駄な争いを避けようとする人柄だ。
『イップ・マン 葉問』(葉問2)でのエピソードだが、
香港で武館(道場)を開いたばかりの主人公は、
なかなか弟子が来なくて焦っていた。
そこへ近所のおばさんがひょっこり現れる。
「ここ空いてるなら、洗濯物を干していいかい?」
武館はビルの屋上にあったため、
広くて日当たりがよかった。
それに苦笑して葉問ははうなずく。
その上、毎日のように来るおばさんが足を痛めていた日には、
代わりに洗濯物を干してあげる。
そんな風に肩の力の抜けた人なのだ。
おんぼろアパートの狭い一室で
家族と食卓を囲むひとときや、
近所の人から頼られて、
学校の警備なんかしているのも
生活感があって微笑ましい。
そんな葉問が闘うのは、
彼にとって大切なものを守るときだ。
日中戦争における
日本軍の横暴への抵抗であったり
(『イップ・マン 序章』葉問1)、
ライバルの遺志を継ぎ、
中国武術の誇りを守るためだったり
(『イップ・マン 葉問』葉問2)、
あるいは妻の思いや
子どもの未来を守るために
(『イップ・マン 継承』葉問3)、
彼は立ち上がってきた。
一度こぶしを握った彼からは、
ゆるぎない静かな強さを感じる。
シンプルな黒の中国服(長袍チャンパオ)も、
地味な感じの詠春拳も、
葉問のキャラクターを引き立てている。
他の流派に比べて、
詠春拳は派手な投げ技や蹴り技をあまり使わず、
攻防一体のコンパクトな動きが特徴だ。
裏返せば非常に合理的で無駄が無い。
葉問は、時代に先駆けて中国武術を科学的に整理し、
近代化した人とも言われている。
この「余計なことはしない」という精神は
ブルース・リーに受け継がれ、
彼の創った截拳道(ジークンドー)にも生きているという。
バリエーションにとんだアクションの数々
『イップ・マン 完結』(葉問4)でも、
あいかわらずドニーの流れるような
詠春拳の動きは美しい。
ただ葉問の年齢を考えれば、
若いころと同じには描けないと考えたのだろうか。
アクションは手堅い王道に終始したというか、
あまり目新しさが無く、
迫力も物足りなかった気がする。
今までのような
ケレン味のある演出を期待していた私としては残念だ。
その代わりダミーに向かって、1打1打
思いを打ち込む葉問の姿が印象的だった。
個人的に熱かったのは、
太極拳のマスターでもある会長ワンと
詠春拳のマスター葉問の対決。
アクション俳優としても実力者どうしの闘いは、
白熱する中にも優雅さがただよう。
でも葉問ファンにとって、
今作の目玉はブルース・リーのファイトシーンかもしれない。
『継承』では顔見せ程度だったが、
『完結』では彼の代名詞ともなっているヌンチャクさばきや、
ほぼゼロ距離から相手を吹き飛ばす
ワンインチパンチなどを披露してくれる。
ブルース演じるチャン・クォックワンは、
ブルース似の俳優として有名らしく、
映画『少林サッカー』や『カンフー・リーグ』などでも
そっくりさん振りを見ることが出来る。
ブルースの目つきやしぐさ、しゃべり方などが
ごく自然に再現されていて驚いた。
葉問の晩年、
親から子へ受け継がれるもの
映画の冒頭、葉問は医者から病の宣告を受け
物思いに沈む。
その横顔には老いがにじみ出ていて、
はっとさせられた。
『イップ・マン 完結』(葉問4)は
シリーズの最後として、
自分の終わりを意識した主人公から始まる。
ストーリーで描かれるのは、
親子のすれ違いと、
アメリカに暮らす中華系の人たちをめぐる
厳しい差別の現実だった。
2つはイコールではないが、
共通するのは「無理解」かなと思う。
人種差別的偏見はもちろん、
親子間のコミュニケーションもなかなか難しい。
多くの親が思いがけない子どもの反発に驚き、
どうしてこうなったと考える。
自分は精いっぱい良いと思うものを与えてきたのに、
子どもから返ってくるのは
「押し付けるな」「私を解ってくれない」の声。
理不尽な現実に立ち向かってきた葉問が、
今度は自分の「無理解」と向き合う立場に立たされるのが興味深い。
物語の最初からシングルファザーとして、
自分がいなくなった後の子供の将来のために彼は奔走する。
さまざまな出来事を経て、
とまどいながらも息子に思いを伝えようとする葉問の姿は、
とても人間らしい。
今まで積み重ねてきた彼の半生を想うとき、
そこにはしみじみとした感慨があふれてくる。