感想:麒麟の才子と、その主
麒麟の才子がもつ限界
実は、梅長蘇(ばいちょうそ)には時間がない。
かつて受けた毒の後遺症で体はボロボロ、
得意だった武術も使えなくなってしまった。
下手すると復讐に必要な時間さえ
残されていないかもしれない。
身近な人は、梅長蘇が養生して
少しでも長生きしてほしいと願っている。
それでも彼は、12年前の地獄を生き残った者として、
父や仲間だった赤焔軍の無念を忘れることができない。
まるで復讐に残りの命を燃やすかのように、
やせて青白い体に激情を秘めて穏やかに微笑む、
梅長蘇はそんな男だ。
一番の障害は主かも?
敵は皇帝をはじめ、有力な2人の皇子と配下の大臣たち、
そしていまだ正体のわからない赤焔事案の黒幕と、
政治の中枢に近い者ばかり並ぶ。
梅長蘇のやろうとしていることは
ゾウに挑むアリに等しい。
けれど梅長蘇にとって一番の障害は、
主の靖王(せいおう)かもしれない、と思った。
靖王は、強い後ろ盾も中央での人脈も持たない
冷遇された皇子だ。
赤焔事案の判決に抗議して皇帝の怒りを買ったため、
長年戦地で功績をあげても軽んじられてきた。
そんな境遇でも、靖王は親しかった
赤焔軍の人たちの無実を信じ続けている。
靖王に力が無いのは、
梅長蘇が得意の智謀で何とかするとして、
問題なのは靖王の潔癖さである。
まっすぐで、必要なら人を助けるために
命をかけてしまうヒーロー気質は、
梅長蘇が彼を選んだ理由でもあるが、
権力争いには裏目に出てしまう。
謀略を憎む靖王は、
梅長蘇のことも初めから疑いの目で見ていた。
それが爆発するのが第6話だった。
ヒロイン・霓凰(げいおう)の危機を
自分たちの計画の踏み台にした、
と誤解する靖王が、
梅長蘇に怒りをぶつける。
「郡主が戦場で身を張るからこそ、
先生(梅長蘇)たちは権力争いに
明け暮れることができるのだ。
今後私を支えるなら、
郡主のような者を利用することは
絶対に許さん!」
ただでさえ梅長蘇と靖王は、
一歩間違えば死が待つ綱渡りをしている最中だ。
「傷つけるな」じゃなくて「利用もするな」なんて、
どんな縛りプレイなのか。
失敗してもやり直せるだけの時間がない梅長蘇にとって、
チャンスは1度しかない。
準備に準備を重ねているだろうに、
靖王の単純な正義感が
全てをぶち壊してしまいそうな危うさがある。
そこでめげないのが梅長蘇だ。
陰険で血なまぐさいことが許せない靖王に代わって、
必要な闇はすべて自分が背負う、と言う。
こんな理解のない上司と
どうやって信頼関係を結び、
逆転劇を起こしていくのか、
麒麟の才子の鮮やかな手腕を見せてほしい。